ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体 (幻冬舎新書)
おおたとしまささんの「ルポ塾歴社会」を読了
子どもたちがサピックスに通いはじめたこともあり、「サピックス小学部」経由「鉄緑会」という日本を牛耳る2つの塾について詳細に記されているルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体 (幻冬舎新書)のkindle版を読みました。
中学受験をする家族全てが読む必要があるかどうかはわかりませんが、サピックス小学部に子どもを通わせる家族、親がリードしながら中学受験をする家族は情報収集という意味で読み応えのある書籍です。
というのも、この書籍には「サピックス小学部」経由「鉄緑会」経由「東大」というルートを通った現役の東大生、このルートを自分も通ってきた母親・父親、このルートを今辿っている子どもたちを見守る名門中高一貫校の教師たちの声が丁寧に取材されているからです。
ブログや雑誌記事などで断片的に知ることができる情報が一つにまとまっているという点で、サピックスに通う子どもたちが目にする現実がおおたさんの目通して一つひとつ明らかにされていきます。
「ルポ塾歴社会」を読んで驚いた!5つのポイント
この本を読んで本当に驚いてしまったのは、以下の5つのポイントです。
- 圧倒的な学力を持つ子どもがいる!
- 本当に心配なのは「普通」の子ども
- 名門校の授業で内職をする「鉄緑会」生
- 中学受験・大学受験をスムーズに通りすぎた子どもたちの長所と裏腹の短所
- エリートコースを歩むことが逆に人生を狭める場合がある
ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体 (幻冬舎新書)
圧倒的な学力を持つ子どもがいる!
「学力」にはさまざまな定義がありますが、この本で圧倒的な「学力」を持つ子どもという場合に意味されているのは、鉄緑会やサピックスの猛烈な進度の授業と膨大な量の宿題を軽々とこなして東大へ進学していくことができる学力のある子どもという意味です。
実際にごく普通の我が子がサピックスで取り組んでみると、その授業のスピードと宿題の量には確かに圧倒されます。そして、塾の先生や名門中高一貫校の先生方もそこを前提としているという事実に。もっと言ってしまえば、自分の子どもは「圧倒的な学力を持つ子」ではないと思われているのだろうという事実に違和感を感じました。
それと同時に鉄緑会やサピックスの猛烈な進度の授業と膨大な量の宿題を軽々とこなして東大へ進学していくことは出来ない気配だけれど、公立小学校ではできる方である我が子をそういう子どもたちと同じように考えて接しないことがやはり大切なのだろうなと感じました。
ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体 (幻冬舎新書)
本当に心配なのは「普通」の子ども
この本には、鉄緑会の猛スピードの授業と宿題のボリュームについていけず、塾でも学校でも成績を落として廃人のようになってしまう子どもを例える表現として「鉄力廃人」という言葉が出てきます。
広く目線をとればとても優秀な子どもなのに、レベルの高い子どもたちの集団にいることで、自信をなくしてしまい廃人のようになってしまう点が指摘されています。
ごく一部の圧倒的な学力を持つ子どもでない普通の子どもには、このような「鉄力廃人」になる可能性が比較的高くあります。この本の中では「サピックス廃人」という言葉は出てきませんが、そうなる前に、自分の学力や発達に合った環境を選び直していくというのも、選択肢のひとつとして常に持ち続けておくというのも親にとっては重要なことかもしれません。
ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体 (幻冬舎新書)
名門校の授業で内職をする「鉄緑会」生
桜蔭や筑駒の授業中に堂々と鉄了会の宿題をする子どもたち。また、一般にはかなり優秀な子どもたちであってもそこまでしないと終わらないボリュームの宿題を出す鉄緑会についての名門中高一貫校の先生方の辛辣なコメントもこの本で紹介されています。
また、算数の解法に「鉄緑会」式とわかるものが多数あり、そういった解答に眉をひそめる先生がいるという事実も、この本でなければ中々出てこない本音です。
ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体 (幻冬舎新書)
中学受験・大学受験をスムーズに通りすぎた子どもたちの長所と裏腹の短所
圧倒的な学力を持つ子どもだからこそのトラップもあります。「しんどいが『正解』がわからない状態に対する耐性」が弱く自分たちの明晰な頭脳であっても解けない問題に対して「『考えてもしょうがない』『それはそういうものだ』として思考を停止する癖」がある。おおたさんはそのトラップを指摘します。
おおたとしまささんが見た「王道」を歩む人の特徴
- 「答え」を見つけるのが得意
- 「そういうもんだ」と自分を納得させられる
- 何でも「いちばん」を目指す
- 謙虚
大量の宿題にも受験勉強の過酷さにも「それはそういうものだ」と飲み込めてしまう。ここが強さであり弱さであり、「社会のリーダーになったとき(中略)『正解』は出せなくても、向き合い続けなければならない」それが彼らにできているのだろうか? この本の後半にあるおおたとしまささんのこんな指摘です。
私自身、長く社会で仕事をしていると、おおたさんと同じように圧倒的な学力を持つ人たちに対して感じる場面を経験することはすくなくありません。一方で、圧倒的な学力を持ってきたであろう人たちのしたたかさや最終的には挽回してくる強さも感じることが多く、単純なパターン分けはできないようにも感じました。
しかし、自分自身が普通の人で、普通の子の親である私にはとてもうらやましく思えるエリートにも、悩みや葛藤、運や周囲との関係とは無縁ではいられないという事実も改めて感じる点でした。
ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体 (幻冬舎新書)
エリートコースを歩むことが逆に人生を狭める場合がある
回り道をせずに効率的に結論を導き出す「圧倒的な学力」もつ子どもたち。この本の前半に30代前半の中央省庁で働く女性の例が出てきます。
サピックス、桜蔭、鉄緑会、東大文Ⅰというルートをたどった女性です。彼女のコメントに「サピックスにも鉄緑会にも受験勉強の達人みたいな生徒がいて、まわりからも一目置かれていたんですけど、今、30を過ぎて見ると、彼らにかっての輝きが感じられないというか、意外とパッとしないというか……」というものがあります。
彼女はそれに続けて「それまでの私には自分で決めた既定路線みたいなものがあって、それに縛られていたんだなと思うんです」。一言では表現しずらいこの彼女のコメントに集約されることが、おおたとしまささんがこの本で言いたかったことの一つであるように感じます。
また、親としては、おそらく子どもたちがどんな人生を歩もうと、その人生を通じて自然と決めてしまう「既定路線」を子どもたちが歩めず悩んでしまったときなどに、さまざまな選択肢やさまざまな人がいることを、伝えてあげることの重要性なども強く感じるところでした。
まとめ 中学受験の先にあるものを見ていく手がかりになる本
親は子ども自身と、長く長く付き合っていく存在であるように思います。その中で「学力」というファクターは10代~20代前半の時期に限定した非常に重要な要素になっています。
とはいえ、私達、親にとって本当に願っているのはやはり「子どもの幸せ」です。受験という最中にあると、そのことをどうしても忘れそうになってしましますが、悩むとき、どうしたらいいかわからないときこそ、そこに立ち返って、子どもに向かっていきたいと感じる本でした。
書名 | ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体 (幻冬舎新書) | ||||
著者 | おおたとしまさ/育児・教育分野を中心に活躍するジャーナリスト。1973年東京生まれ、男子御三家の一角である麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。リクルートで雑誌編集に携わり、2005年に独立。育児・教育に関する執筆・講演活動を行う。各種メディアへの寄稿、コメント掲載、出演も多数。心理カウンセラーの資格、中高の教員免許を持ち、私立小学校での教員経験もある | ||||
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版元 | 幻冬舎 |
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